佐々木太郎(14回生)
「柳橋ものがたり」のシリーズは、すでに二見時代小説文庫で5冊出版されていて、すべて読んでいる。この第6巻は今年発行され、いつものようにアマゾンで買おうと思っていたら、3月に行われたつゝじヶ丘同窓会東京支部の事務局会議のおりに、感想文を書いて会報に載せるという条件で、広報担当の井田ゆき子さん(20回生)から貰ったものである。彼女は森真沙子(11回生)のファンクラブを立ち上げ、ボランティアでホームページの制作、管理をしている。
船宿「篠屋」の女中である主人公の綾が、船宿で偶然出会った事件に巻き込まれて、あるいは積極的に関与して活躍する物語で、各巻とも5話の連作であるが、この第6巻では少し違った展開もあった。第1話「冬の朝顔」は、主人公の綾が船宿に勤める前に綾の父の友人の診療所に勤めていたときの話であり、朝顔を育てている御家人と知り合うが、話の中で綾自身の過去も語られる。「柳橋ものがたり」は綾が船宿に就職するところから始まったので、これは将来の話の伏線になっているかもしれないと思って読んだ。ただ、新しい人の名前が沢山出てくるのと時系列がやや分かりにくく、2度読みしなければならなかったが。また第5話「篤姫様お成り」では、綾が生き別れになっている兄の消息を求めて天璋院篤姫に会う寸前まで話が進む。
この本のサブタイトルにもなっている第4話「しぐれ迷い橋」は、江戸一番の大人気の噺家三遊亭圓朝がかかえる悩みと粋人の幕臣成島柳北がからむエピソードで、これなどはまさに「家政婦は見た」の時代小説版的なつくりである。
各話完結しつつも、主人公の過去が少しずつ明らかになり、今後の展開の可能性を残す手法と、篤姫や山岡鉄太郎、榎本武揚など実在の人物がからんで展開するストーリーの進め方は、幕末、慶應年間という激動の時代の歴史小説的趣と、季節感にあふれる江戸情緒で読む者を飽きさせない。このままシリーズが続くと日本橋物語(全10巻)を超えて彼女の代表作になるかもしれない予感と期待を持たせる。
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